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第15話 焦げたクッキーと勇者の違い

Author: 東雲明
last update publish date: 2026-07-10 13:55:32

 夜が深くなるにつれ、宿屋の木の壁は、昼間とは違う顔を見せ始めた。

 食堂から聞こえていた人々の笑い声はとうに途絶え、煮込み料理の温かな匂いも、今ではかすかに残るだけになっている。廊下に並んだランプが頼りなく揺れ、その淡い光が扉の隙間から細く差し込んでいた。

 窓の外には、黒い波のような森が広がっている。

 風が吹くたびに枝葉が触れ合い、さわさわと音を立てた。遠く離れた場所で、誰かがひそひそと囁いているようにも聞こえる。

 旅の途中で、一晩だけ身体を休めるための宿。

 本来なら、それ以上でもそれ以下でもない場所だった。

 それなのに、ミユウが俺の腕の中にいるだけで、この狭い部屋がどこにも代えられない場所に思えた。

 ミユウは俺の胸元に額を寄せたまま、しばらく何も言わなかった。

 いつものミユウなら、窓の向こうに星を見つければ嬉しそうに指を差す。宿の入口で丸くなっていた猫に勝手に名前をつけ、道端で怪我をした人を見れば、俺たちを置いてでも駆け出してしまう。

 けれど今夜は、背中の白い羽を小さくたたみ、俺の服を指先で掴んでいるだけだった。

 その指が、かすかに震えていた。

「龍夜くん」

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  • 異世界転生してもスキルはなかったけど、白い羽をもつ彼女を守るため最強の勇者目指します   第4話 守れぬ手

    「雑魚だろ。そんなひょろくて能力もないやつが救世主なんて信じられん」 ルゥの声が、神殿の裏庭に冷たく落ちた。 白い石畳の上で、俺は拳を握ったまま動けなかった。言い返したいのに、喉の奥が焼けつくばかりで、うまく声にならない。 天界アストリアに召喚されてから、俺は何度も自分の弱さを見せつけられている。 戦闘力はない。魔力もない。剣を握っても、手のひらに残るのは頼りない重さだけ。 それでも、ミユウを守るためにここへ来たのだと、俺は思いたかった。「ルゥ、そんな言い方しないで」 俺の隣で、ミユウがむっと頬をふくらませた。 背中の白い羽が、朝の光を受けてやわらかく揺れる。神殿の庭に咲いた

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    「お前、なんで俺の名前知ってるんだ」 俺の声は、自分で思ったより低く響いた。 白い石で造られた広間は、天井がやたらと高い。柱には羽を広げた女神みたいな彫刻が並び、壁の奥では青白い光がゆらゆら揺れていた。 ここが天界アストリアだとか、俺が勇者として召喚されたとか、正直まだ頭が追いついていない。 それでも、一つだけ引っかかっていた。 目の前の少女――ミユウ・ネフェルト。 俺よりずっと小柄で、銀色の髪をふわりと揺らし、背中に大きな白い翼を持った少女。初対面のはずなのに、こいつは当然のように俺の名前を呼んだ。 瀬野龍夜。 俺が名乗る前に。 その事実だけは、どんな不思議な景色よりも気

  • 異世界転生してもスキルはなかったけど、白い羽をもつ彼女を守るため最強の勇者目指します   第2話 選ばれなかった数値

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